2015年7月22日水曜日

日渡早紀先生の「記憶鮮明」

前回に引き続き日渡早紀先生です。今回は私が日渡早紀先生の作品の中で最も好きな「記憶鮮明」についてです。
「僕の地球を守って」は「記憶鮮明−東京編」とうたわれているように、その前身となる「記憶鮮明」というマンガがありました。舞台は20xx年のニューヨーク、ヒロインはエリザベス(リズ)、連続爆破事件の被害者であり唯一の目撃者として、亡くなったパセリ・モガンの代わりに犯人を思い出すためにつくられた3人のクローンの1人でした。
物語は爆破される直前の映画館から始まり、爆破、少女の死、そして死んだはずの少女が取り調べを受けている場面に変わります。映画のようなアングルでドラマティックな展開のSFマンガです。ヒロインである3人のクローン少女は映画好きで、自分たちの名前をイングリット、オードリー、エリザベスと自ら名乗ります。古い映画の有名な美人女優バーグマン、ヘプバーン、テイラーの名前です。私もちょうどその頃の映画が好きで色々な作品をビデオで観たので、余計に好感を持ちました。個人的にはヘプバーンと並んでモンローが最も好きな映画女優なのですが、モンローはこのマンガの中では悲しいかな悪役扱いされています。映画館で始まり、映画好きのヒロイン、悪役のモンローと映画三昧のこの物語は、ラストも映画のエンディングのようで、ヒロインリズの記憶に関するセリフが印象的に表現されています。
続編となる「そして彼女は両眼を塞ぐ」が翌年の別冊花とゆめで「記臆鮮明」の総集編に併せて書き下ろされていて、内容はリズがボストンの恋人のもとに行くところから始まる殺人事件です。花とゆめコミックスにも同時収録されています。
間にアクマくんシリーズの「アクマくんブラック・ミニオン」の連載があり、その影響か「記臆鮮明」と「そして彼女は両眼を塞ぐ」では、絵柄に違いが見られます。この頃、それまで読み切り形式だった作品が長い連載になってきて、日渡早紀先生のキャラクターの描き方、コマの使い方などが変化してきました。
もともと、デビュー時からどんどん線が洗練されていくのですが、日渡早紀先生は絵が固定化しないというか、常に新しい描き方を探求されている様子で「ぼくたま」の絵も美しいと思っていましたが、それ以降も、絵柄を固定化することなく、その次、そのまた次と絵柄が変わっていったように思います。日渡早紀先生のどの時期の絵が好きかは、それぞれの好みなのだと思いますが、スクリーントーン全盛の今のマンガと比べると、カケアミを多用したバック処理や人物の影に用いる手描きの斜線など、ベタの配分も多い「記憶鮮明」のあの頃の絵も懐かしく好もしく思えます。
2015年7月22日(水)
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「記憶鮮明」初出/1984年5月4日発売花とゆめ11号、5月19日発売花とゆめ12号、6月5日発売花とゆめ13号
「そして彼女は両眼を塞ぐ」初出/1985年3月9日発売別冊花とゆめ春の号
コミックホームズさん参照  http://comich.net