2015年9月8日火曜日

「スピカ」短編でここまで描ける力

10年来の友人の娘が今、高校で漫研に所属しています。彼女が初めて我が家に遊びに来たのは、まだ私の娘が2歳で彼女が10歳、よく面倒を見てくれて助かりました。そんな彼女に花火大会で会った時に「短編マンガってどう描くの?6ページで描かないといけないんだけど」と聞かれました。その時にぱっと思い浮かんだのは萩尾望都先生の16ページ作品「半神」でした。あの短いページ数なのに泣かされ、考えさせられ、そしていつまでも心に残る、萩尾望都先生の凄さを感じさせられた作品でした。

面白い長編を描くマンガ家はたくさんいます。でも、魅力的な短編を描くのはなかなか難しいと思うのです。デビュー時には、どのマンガ家も短い作品を描いています。少女マンガの投稿作品の規定ページ数である16ページは、起承転結の基本ですが、これがなかなか難しいと思うのです。とびきり面白い16ページ作品でデビューした!というマンガ家というのは記憶にありません。川原泉先生の「ジュリエット白書」は面白い作品でしたが、HMC受賞作品ということで、まだまだこれから伸びていくという感じでした。それでも、結局、デビューをするとギャグマンガやエッセイ形式のマンガでない限りは、ページ数が32ページ以上になるのが普通です。LaLaでは時々、番外編(最近はスピンオフとかいうのでしょうか?)で本編からそれた内容のものが16ページ位の短編になることがありますが、それは既にキャラクターが確立された上で描く物語なので、通常の短編マンガとはまた違った感じだと思います。とにかく、力のあるマンガ家は連載やボリュームのある読み切り作品を描くわけですから、短編を描いてもらえる機会は滅多にありません。

1987年と1988年に白泉社から『Short Stories』という読み切りの短編作品だけの雑誌が出ました。長くて20ページ、大体16ページか8ページの短編作品を集めた雑誌でした。LaLaで活躍するマンガ家の中では大島弓子先生や玖保キリコ先生、坂田靖子先生などもいて、普段はLaLaで描くことがなかった松苗あけみ先生、小椋冬美先生、川原由美子先生、ふくやまけいこ先生、さべあのま先生、藤原カムイ先生、楠桂先生、よしまさこ先生なども描かれていました。(コミックホームズ参照 http://comich.net )その中で、私の記憶に残っているのは、残念ながら玖保キリコ先生の「眠り姫ちゃん」だけです。

羽海野チカ先生の初期短編集「スピカ」には、「冬のキリン」6p、「スピカ」28p、「ミドリの仔犬」24p、「はなのゆりかご」24p、「夕陽キャンディー」6p、「イノセンスを待ちながら」6pの6作品とあとがき1pが収録されています。「イノセンスを待ちながら」はエッセイですから除外するとして、他5作品はこのページ数でここまで描けるのかと唸らされるばかりです。どれも、とても面白い作品だと私は思います。(面白いというのはガハガハ笑うという意味ではありません)「冬のキリン」と「夕陽キャンディー」は特にそうです。画力が素晴らしいのはもちろんですが、本当に読み応えがあるマンガです。「夕陽キャンディー」はBL誌に掲載されたものですが、もし他の掲載誌でも、このマンガの設定は片方が女教師や女子高校生だとダメな気がします。男子高校生と教師というのがこの6p作品独特の雰囲気を作っています。「冬のキリン」は、右綴じに縦書きのセリフという中に帯を横断してモノローグを入れるという羽海野チカ先生がよく使われる手法で主人公の気持ちが描かれていて、ぐっときます。また、それがモノローグだからこそ、お父さんの慰めの言葉がピント外れになり、これがまたぐっとくるのでした。「スピカ」は、デビューしたばかりのマンガ家が描きそうな設定なのですが、画力もストーリーも圧倒的です。「ミドリの仔犬」「はなのゆりかご」にしても、文句なく面白い作品です。
短編でこれだけ描けるというのは、本当に凄いと思います。羽海野チカ先生には脱帽です。
2015年9月8日(火)